分析レポート

製品紹介動画に関する動画視聴とAIインタビュー



「見ているだけ」で終わらせない:生体データ計測とAIインタビューで解き明かす、動画視聴における“無意識の反応(Attention)”と“深層心理(Insight)”

📑 目次

動画クリエイティブの評価において、従来のアンケートによる意識調査だけでは、視聴者の無意識的な反応を捉えることには限界がありました。
また、生体データを用いた会場調査は、設営、機材、被験者調整といったコストや手間が大きな障壁となっていました。
本レポートでは、スマートフォン1台で視線計測が可能な弊社アプリケーション「エモミル」を活用し、生体データ(視線・表情)とAIインタビューを組み合わせることで、動画視聴者の“本音”と“行動”を多角的に可視化しました。
生成AIの普及により動画制作が容易になる一方、意図しないメッセージの伝達による「炎上」のリスクも高まっています。
本分析は、そうしたリスクを未然に防ぎ、クリエイティブの効果を最大化するための指針を提供することを目的としています。




本調査から明らかになった主要なポイント

本調査では、生体データ計測とAIインタビューを組み合わせることにより、以下の重要なインサイトが得られました。

  • 注目箇所の特定(生体データ): 動画全体に対して高い興味が示されましたが、特に「製品特徴紹介」および「製品タイトルとビジュアル紹介」のシーンが最も注目を集めていることが明らかになりました。
  • 課題点の抽出(AIインタビュー): 動画に対する改善点として、「メッセージの不明瞭さ」「製品情報の不足」「アウトドアというコンセプトへの疑問」が挙げられました。
  • 想起体験の分析(AIインタビュー): 動画視聴時に想起された経験として、半数の回答者が「自然に関する体験」を挙げており、これは「コーヒーに関する体験」を想起した回答者数の4倍以上に相当することが判明しました。
  • ターゲット層の特定(統合分析): アウトドア志向の層では72%が動画に好意的な一方、インドア志向の層では好意的な回答が44%に留まり、ターゲット層によって好意度に大きな差があることが明らかになりました。
  • 具体的な改善提案: 上記の分析結果に基づき、動画の強みを伸長させ、弱点を補完するための具体的な改善策を導出しました。



1. 調査概要

調査対象者

本調査は、弊社サービス「エモミル」の登録モニター102名を対象に実施しました。
性別・年代等による割付や、事前スクリーニング調査は実施しておりません。
参加者の属性は以下のグラフに示す通り、性別は男性64名、女性38名でした。年代別に見ると、40代が37名と最も多く、次いで50代が32名でした。

調査参加者の年代別構成比を示す円グラフ 調査参加者の性別構成比を示す円グラフ
調査対象動画

調査対象として、環境配慮をコンセプトとした架空の缶コーヒー「サステナコーヒー」の30秒CM動画を制作し、対象者に視聴いただきました。
対象動画は以下の通りです。


また、シーンごとの分析を行うため、「エモミル」の管理画面上で、以下の通りシーン分割を設定しました。
動画のシーン分割設定画面

調査構成

本調査は、「動画視聴」「アンケート回答」「AIインタビュー」の3つのタスクで構成され、すべて「エモミル」アプリ上で実施しました。

動画視聴タスク

動画視聴中は、スマートフォンのカメラを通して視線や表情といった生体データを計測しました。
「エモミル」では、これらの生体データから独自の「興味度」スコアを算出しています。
興味度は、「①画面内への視線」「②表情のポジティブ・ネガティブ変化」「③注視の有無」「④瞬きの頻度(少ないほど高い)」という4つの指標を統合し、1から5の5段階で評価されます。
興味度指標の定義を説明する図

アンケートタスク

アンケートでは、CM動画に対する好意度を以下の5段階評価で尋ねました。
質問:あなたはこのCMがどの程度お好きですか。次の中から最もよく当てはまるものを1つ選んでお答えください。

  • 非常に好き
  • 好き
  • どちらともいえない
  • あまり好きではない
  • 全く好きではない

本レポートでは、回答のうち「非常に好き」「好き」を「好意層」、「どちらともいえない」を「中間層」、「あまり好きではない」「全く好きではない」を「非好意層」と定義して分析を行いました。

AIインタビュータスク

AIインタビューでは、まず固定質問として以下の2問を提示し、その後、回答内容に応じてAIが最大3問の深掘り質問を自動生成して対話を行いました。設問中の `{}` には、各ユーザーが動画視聴時に最も高い興味を示したシーンの名称が自動的に挿入されます。

  1. あなたは{}シーンを見て、どんな気持ちが湧いてきましたか?楽しそう、懐かしい、羨ましいなど、どんな小さな感情でも構いません。あなたの率直な印象を教えてください。
  2. シーン{}を観て連想した、あなたの似た経験や印象に残っていることを教えてもらえますか?

インタビュー画面では、以下の図のように、対象者が最も注目したシーンが再生される仕様となっており、具体的な回答を促します。
AIインタビューの回答画面のスクリーンショット



2. 生体データ分析:視聴者は動画の「どこ」に注目したのか?

各ユーザーが最も高い興味度を示したシーンを分析した結果、「製品特徴紹介」と「製品タイトルとビジュアル紹介」がそれぞれ32名で最多となりました。このことから、自然の風景を描いたシーンよりも、製品情報が提示されるシーンに対して、より多くの視聴者が関心を示したことが分かります。
ただし、シーンごとの平均興味度スコアを見ると、シーン間で大きな差は見られませんでした。弊社「エモミル」で過去に分析した動画の平均興味度スコア(3.18)と比較すると、本動画はいずれのシーンにおいても全体的に高い水準の興味を維持していたと評価できます。

シーンカテゴリ毎に最も注目した人数のグラフ シーン毎に最も注目した人数の分布を示すグラフ

シーン毎の平均興味度の分布を示すグラフ



3. 生体データ分析 × アンケート:動画への好意度と注目の関係性

アンケートで聴取したCMへの好意度は、好意層54名、中間層29名、非好意層19名という結果でした。
CMへの好意度別の構成比を示す円グラフ
この好意度別に各シーンへの興味度を分析すると、「製品特徴紹介」シーンは全ての層で比較的高い興味を集めていることが確認できました。
一方で、特徴的な点として、非好意層において「アウトドアメッセージ」シーンへの興味度が42%と、他の層に比べて高い数値を示している点が注目されます。
好意度別に各シーンへの興味度を示したヒートマップ



4. AIインタビュー分析:視聴者の「なぜ?」に迫る

AIインタビューで得られた回答から、視聴者が動画を観て想起した体験を分析しました。回答内容に基づき、体験を「自然情景」「製品関連」「環境保護」の3つに分類した結果、以下のグラフの通り「自然情景」に関する体験を想起したユーザーが50名と最も多いことが分かりました。これは製品関連に関連に関するコメントの4倍以上になります。
これは、動画全体のトーン&マナーを反映した結果と考えられ、具体的にはキャンプや海、ドライブといった経験が多く挙げられました。
想起した経験のカテゴリ別割合を示すグラフ

  • 自然情景:「よく山に登るのでまた山に行きたくなりました」
  • 自然情景:「屋外でのキャンプでの食事や団欒」
  • 自然情景:「子供の頃に海で遊んだ事を思い出しました」
  • 製品関連:「朝は目覚めたらコーヒーを飲むので」

生体データで示される「興味」は、必ずしもポジティブな関心だけを意味するものでではありません。ネガティブな感情や疑問から注目が生まれるケースも存在します。そこで、AIインタビューの回答から動画に対する課題点を抽出・分類しました。
その結果、「メッセージの不明瞭さ」を指摘する声が16名と最も多く、次いで「製品情報の不足」(14名)、「アウトドア専用というコンセプトへの疑問」(9名)が挙げられました。
動画に対する課題点のカテゴリ別回答者数
具体的には以下のような意見が挙げられていました。

  • メッセージの不明瞭さ:「何を見せたいのかがよく分からなかった」
  • メッセージの不明瞭さ:「飲料を見せるのに海だったりキャンプだったりしていて、何を伝えたかったのかがよく分からなかった」
  • 製品情報の不足:「香りや苦味の情報が一切無く、甘いのが苦手な自分に合うのかよく分からなかった」
  • 製品情報の不足:「どのようなこだわりが味にあるのかを伝えてほしかった」
  • アウトドア専用コンセプトへの疑問:「インドアでも飲めるだろうし、アウトドアに絞らなくてもよい気がしました」
  • アウトドア専用コンセプトへの疑問:「具体的にどういう理由でアウトドア専用なのかが不明だった」



5. 統合分析:データが示す「顧客理解の深化」と「ビジネス機会」

これまでの分析で、①非好意層が「アウトドアメッセージ」シーンに高い興味を示していること(3章)、②AIインタビューでは「アウトドア専用コンセプトへの疑問」が課題として挙げられていること(4章)が明らかになりました。
これらの結果から、「“アウトドア”というコンセプトが、特定の層(特にインドア志向の層)からの好意を妨げる要因になっているのではないか」という仮説を立てました。
この仮説を検証するため、「エモミル」に蓄積されたユーザーのアンケート結果を用いて、今回の調査参加者を「インドア派」「非インドア派(アウトドア志向)」「中間派」に分類し、CMへの好意度とのクロス集計を行いました。
分析の結果、非インドア派では72%がCMに好意を示したのに対し、インドア派ではその割合が44%に留まることが判明しました。
この結果は、インドア派の視聴者が「アウトドア専用」というメッセージから「自分向けの製品ではない」と判断し、好意度が低下した可能性を強く示唆しています。

インドア・非インドア別の参加者分布 インドア・非インドア別のCM好意度割合



6. 分析結果に基づく動画の改善提案

ここまでの分析結果を踏まえ、本動画のコミュニケーション効果を最大化するための改善案を提案します。基本的な方針として、明らかになった「強み」をさらに伸長させつつ、「弱み」を解消する施策が有効と考えられます。

分析結果の要約
  • 強み: 動画全体への興味度は高く、特に「製品特徴」や「製品タイトル」が提示されるシーンは高い注目を集めています。
  • 弱み: 「メッセージの不明瞭さ」「製品情報の不足」が課題として指摘されています。また、「アウトドア専用」というコンセプトがインドア派の共感を得られていません。
  • インサイト:
    • 動画から想起される体験は「自然情景」が中心で、「コーヒー」そのものへの連想が弱い傾向にあります。
    • 「アウトドア」というテーマは、非インドア派に強く響く一方で、インドア派を疎外している可能性が示唆されます。
改善の方向性
  • 製品のコア価値訴求の強化:
    • 視聴者の興味が高い「製品情報」をさらに充実させ、味や香り、製法へのこだわりなど、コーヒーそのものの魅力を伝えるコンテンツの追加を推奨します。これにより、製品への理解と飲用喚起を促します。
  • 利用シーンの拡張によるターゲット拡大:
    • 「アウトドア専用」という限定的なメッセージを見直し、インドアでの利用シーンも訴求することで、ターゲット層の拡大を図ります。例えば、「長時間冷めにくい」といった機能性がアウトドアだけでなく、在宅勤務などのインドアシーンでも便益となることを示すことで、インドア派の共感獲得を目指します。



7. 結論:視線計測とAIインタビューが切り拓く、真の顧客理解と次の一手

本調査は、スマートフォンを用いた視線計測とAIインタビューを組み合わせることで、従来の調査手法では捉えきれなかった視聴者の「無意識の反応(Attention)」と、その背景にある「深層心理(Insight)」を多角的に可視化できることを実証しました。

生体データは「何が注目されたか」を客観的に示し、AIインタビューは「なぜ注目されたのか(されなかったのか)」という理由を深く掘り下げます。この2つのアプローチを統合することで、「アウトドアというコンセプトがインドア派の好意度を下げている」といった、表層的なアンケートだけでは見過ごされがちな重要なインサイトを発見することができました。

情報が氾濫し、ユーザーニーズが多様化する現代において、クリエイティブの効果を最大化するためには、こうした顧客一人ひとりのリアルな体験に寄り添い、その本音を深く理解することが不可欠です。客観的なデータ(定量)と、ユーザー自身の「生の声」(定性)を組み合わせることで、初めて的確な戦略立案や具体的な改善策の策定が可能となります。

弊社は、本レポートでご紹介した先進的なリサーチ手法を用いて、お客様のビジネス課題解決に貢献してまいります。動画クリエイティブの評価や改善、その他マーケティング施策に関するお悩みをお持ちでしたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。




■この調査で使用した調査サービス

エモミルリサーチの視聴調査、AIインタビュー調査:https://emomilresearch.com/product/

■引用・転載時のクレジット表記のお願い

本リリースの内容を引用・転載される際は、必ずクレジットを明記していただきますようお願い申し上げます。

<例>「生活者起点のリサーチ&マーケティング支援を行なうエモミルリサーチが実施した調査結果によると……」

■「エモミルリサーチ」について

URL :https://emomilresearch.com/

このレポートの執筆者

新冨 健太

ヴィアゲート株式会社 / 共同創業者・シニアプロダクトマネージャー

「エモミルリサーチ」のプロダクト企画、データ分析を担当。企業のマーケティング業務を効率化するプロダクトを企画、推進しています。データ分析やプロトタイピングも得意としておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。


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